高松高等裁判所 昭和29年(ネ)21号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人が昭和二十三年三月二日訴外岡本彌惣八に対してなした周桑郡吉井村大字玉乃江字中河原四二番地の一田三反一畝十三歩(但し内一反八畝を除く)、同所同番地の二田九畝五歩の売渡処分の無効であることを確認する」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は控訴代理人が原判決摘示控訴人主張事実の(三)を、被控訴代理人が同摘示被控訴人主張の本案前の抗弁を、各主張しない旨述べ、さらに次の点を追加した外、之と抵触しない範囲で原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
控訴代理人の主張。控訴人が本件農地を岡本彌惣八に転貸するにつき地主清水和太郎の承諾を受けた。
被控訴代理人の主張。(一)かりに控訴人が正当な耕作権者であつたとしても、現実には岡本彌惣八が耕作していたから被控訴人が正当な耕作権者の認定を誤り売渡の相手方を誤認して売渡処分をしたとしても外観上明白な瑕疵があるとはいえないから、その処分は当然無効ではない。(二)かりに本件農地の潰廃が不法になされたとしても、行政庁としては不法な行為による変更を認容する義務はなく、その変更前の状態を基礎とし、これを農地として買収し或は売渡すことは適法である。
当事者双方の証拠の提出援用認否は、原判決摘示の通りであるからこれを引用する。
三、理 由
被控訴人が昭和二十二年十月二日本件二筆の土地を、不在地主の小作地として買収し二十三年三月二日中河原四十二番地の一田三反一畝十三歩の内一反三畝十三歩と同所四十二番地の田とを訴外岡本彌惣八に売渡したこと、右二筆がもと訴外清水和太郎の所有で、大正十年頃から昭和十年四月頃まで控訴人が賃借権に基き耕作していたこと、その後昭和十四年まで右岡本が耕作し、同年岡本が呉市に転住し右土地を訴外今井忠男に耕作させ、昭和二十二年岡本が帰郷してからは、今井からその返還を受けて耕作し、本件買収当時は岡本が之を占有して使用耕作していたことは、当事者間に争いがない。
(一) 控訴人は、本件土地を昭和十年四月岡本に転貸したが同十三年四月期間満了により転貸借終了したから、本件買収当時の正当な耕作権者は控訴人であつて、岡本ではなく、右売渡処分は、売渡の相手方を誤認したもので無効であると主張するが、行政処分が無効となるのは それに重大かつ明白な違法が存在する場合でなければならないところ買収当時本件土地を現実に占有して使用耕作していたのは岡本であり成立に争のない乙第一、二、三号証の各一、二、甲第六号証の五、原審証人岡本彌惣八、今井忠男、近藤肇の供述によると、岡本は地主の承諾を得て控訴人の本件土地賃借権を有償で譲受け適法に賃借耕作し来つた旨主張し、その事実を肯定する有力な証人もあることが明らかであつて、控訴人の全立証を参照しても、本件土地の正当な耕作権者が岡本ではなく控訴人であるとのことが、本件売渡処分当時明白な事実であつたとは認め難い。従つてかりに、控訴人が正当な耕作権者であるのに、被控訴人がそれを岡本と誤認して、売渡処分をしたとしても、その処分に明白なかしがあるとはいえないから、単に取消の違法を含むに過ぎず当然無効であるとはいえない。この点の控訴人の主張は採用できない。
(二) 次に控訴人は本件売渡処分は、岡本が知事の許可を受けずに農地を潰廃し、買収当時既に宅地となつていた約一八八坪をも農地として売渡したから無効であると主張するところ、もと農地であつたものが不法な潰廃によつて宅地となつているような場合、行政庁としては、不法な行為による現況の変更を認容しそれに拘束されねばならない道理はないから買収当時の現況によることなく、不法な行為以前の状態を基礎としこれを農地として買収し、或は売渡すことは違法ではないと解すべきである。従つてかりに控訴人主張の右事実があつたとしても、本件売渡処分が無効であるとはいえないから、その主張も採用できない。
控訴人主張の無効原因は、いづれも理由がないから本訴は失当として棄却を免れず、同趣旨の原判決は相当であるから民訴法三百八十四条九十五条八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 前田寛 太田元 森本正)